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大阪地方裁判所 昭和33年(行)15号 判決

原告 青木メリヤス製造株式会社

被告 北税務署長

主文

原告の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、当事者双方の申立。

原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和三〇年九月二一日付でなした昭和二八年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の法人税等の再更正決定(昭和二七年一月一日から同年一二月三一日までの事業年度の繰越欠損金を否認)はこれを取消す。との判決を求め、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求めた。

二、原告の主張事実。

原告会社は、昭和二六年中に設立せられ、同年度には益金を生ずるに至らず、翌二七年度に入り、経理担当社員が北税務署に出頭して帳簿の整理取扱につき指示を受けたところ、係員から急ぎ青色申告書提出承認の申請をせよ、昭和二七年中に申請書を提出すれば、同年度から青色申告法人としての取扱いをする旨の指示を受け、原告会社は、昭和二七年五月二九日、青色申告書提出承認の申請をした。そして昭和二七年一月一日から同年一二月末日までの事業年度(以下単に昭和二七事業年度と略称する)の損益決算を行い成規の確定申告書を提出したところ被告は原告会社を青色申告法人として欠損金を是認し、昭和二八年一月一日から同年一二月末日までの事業年度(以下単に昭和二八事業年度と略称する)の損益決算についても右同様の確定申告書を提出したところ、被告は、原告会社を青色申告法人として法人税法第九条第五項に規定する通り欠損金の繰越を承認した。しかるに昭和三〇年九月に至り、会計検査院が、右原告会社の青色申告書提出承認申請書の提出が昭和二六年一二月末日までになされていないから、原告会社を青色申告法人として取扱うことは違法であると指摘したため、被告は、青色申告書提出の承認を取消すことなく、昭和三〇年九月二一日付で、税法上どこにも認められていない訳のわからぬ前代未聞の前記昭和二七事業年度の欠損金の繰越を否認する再更正決定をなした。しかし青色申告書提出の承認申請書は、その前年の一二月三一日までに提出すべきものとされているけれども、これは一事業年度中の帳簿整理を期するための規定であつて、訓示規定に過ぎず、税務署長において、たとえ申請時期が事業年度開始後であつても、これを承認してその年度から青色申告法人としての取扱いをしても違法と言えず、また税務署長がいつたん青色申告法人として課税処分をしながら、会計検査院の指摘があつたからとて、これを変更することは許されないところである。これを変更するには、誤認訂正の処分をするとか、あるいは上級官庁である国税局長において取消すことを要する。被告のなした右再更正決定は、法人税法所定の更正決定に該当せず、法律になんら根拠のない当然無効のものである。よつて原告は、被告のすすめに従い、被告に対し、異議の申請をしたところ、被告は、これに対し青色申告適用事業年度でないとして、再調査請求棄却の決定をなし、続いて再調査取消決定をなした。そこで原告は、昭和三二年八月六日、右再調査請求棄却決定に対し、再申請をなしたところ、大阪国税局長から、昭和三三年二月二七日付で、青色申告書提出承認申請が適切でないので、欠損金の繰越控除は認めない、として審査請求棄却決定の通知があつたので、本訴請求に及んだ次第である。

三、被告の答弁

原告の主張事実中、原告会社が昭和二六年中に設立せられたこと、原告が昭和二七年五月二九日に青色申告書提出の承認申請をしたこと、原告が昭和二七事業年度の損益決算についての確定申告書を提出したこと、原告が昭和二八事業年度の確定申告書を提出し、被告が原告を青色申告法人として法人税法第九条第五項に規定する通り欠損金の繰越を承認したこと、昭和三〇年九月ごろ、会計検査院が原告主張のような指摘をしたこと、被告が原告主張の再更正処分をしたこと、及び原告がこれに対し異議の申立をしたので、被告が再調査請求棄却の決定をなし、続いて再調査取扱決定をなし、原告の右再調査棄却決定に対する再申請に対し、大阪国税局長が原告主張の審査請求棄却決定の通知をしたこと、はいずれもこれを認める。原告会社経理担当社員が北税務署に出頭して帳簿の整理取扱について指示を受けたことは不知、その余の事実はいずれもこれを否認する。法人税法第二九条によれば、法定の申告書が提出された場合、その申告にかかる課税標準が政府において調査したところと異るときは、政府はこれを更正することができるのであり、この規定は、申告にもとずく納税の当否を税務署長において調査し是正する手続であつて、更正可能な期間内であれば、更正を一回に限るとするわけではなく、当初の調査に誤があつたりあるいは更正後の新しい資料の発見などにより、更に真実の課税標準が判明したときは、再度の更正が許されるのである。また法人税法第二五条には、責色申告書提出の承認申請書の提出があつた場合において、当該事業年度終了の日までに之の申請の承認または却下がなかつたときは、承認があつたものとみなす旨規定しているが、これは適法な承認申請のなされたことを前提とするものであり、当該事業年度開始後に提出された承認申請書は当該事業年度の承認申請としては不適法な申請なのであるから、この場合には右みなし規定の適用される余地がない。原告は右法人税法第二五条第三項の青色申告書提出の承認申請書は当該事業年度開始の日の前日までに提出しなければならないとの規定は訓示規定である、と主張するけれども、この規定は手続規定であつて、これに反する申請は不適法であり、従つて右みなし承認の規定は適用されないのである。

四、被告の答弁に対する原告の主張。

原告が提出し被告が昭和二八年二月二七日受理した昭和二七事業年度の確定申告書は、その用紙は青色であり、しかもそれは被告から交付されたもので、右受理された申告書に、被告は〈青〉の印を押捺しているのである。これは被告が原告会社を昭和二七事業年度から青色申告法人として取扱つた証拠である。しかして原告会社が右昭和二七年五月二九日に被告に青色申告書提出の承認申請をしたのは、被告が昭和二七事業年度から青色申告法人としての取扱いをするからとの話があつたからであり、被告は原告会社の申請時期のおくれているのを宥恕したのである。従つて青色申告書提出の承認申請書提出と同時に承認があつたものと言うべきである。

五、証拠〈省略〉

理由

一、当事者間に争のない事実。

原告会社が昭和二六年中に設立せられたこと、原告会社が昭和二七年五月二九日に青色申告書提出の承認申請をしたこと、原告会社が昭和二七事業年度の損益決算についての確定申告書を提出し、続いて昭和二八事業年度の確定申告書を提出し、被告が原告会社を青色申告法人として法人税法第九条第五項に規定する通り欠損金の繰越を承認したこと、昭和三〇年九月ごろ、会計検査院が、原告会社の青色申告書提出の承認申請書が昭和二六年一二月末日までに提出されていないから原告会社を青色申告法人として取扱うのは違法であると指摘し、被告が昭和三〇年九月二一日付で、昭和二八事業年度分法人税等につき昭和二七事業年度の欠損金の繰越を否認する再更正決定をしたこと、はいずれも当事者間に争がない。

二、被告は原告会社の青色申告書提出の承認申請につきこれが承認をしたか。

原告は、原告会社経理担当社員が北税務署に出頭した際、係員が急ぎ青色申告書提出の承認申請をせよ、昭和二七年中に申請書を提出すれば、同年度から青色申告法人としての取扱いをする旨の指示があつたので、原告会社は、昭和二七年五月二九日青色申告書提出の承認申請をした、と主張する。よつて考えるに、前記当事者間に争のない、原告会社が昭和二七年五月二九日に青色申告書提出の承認申請をした事実、原告会社が昭和二七事業年度の損益決算についての確定申告書を提出し続いて昭和二八事業年度の確定申告書を提出し、被告が原告会社を青色申告法人として法人税法第九条第五項に規定する通り欠損金の繰越を承認した事実、昭和三〇年九月ごろ、会計検査院が原告会社の青色申告書提出の承認申請書が昭和二六年一二月末日までに提出されていないから、原告会社を青色申告法人として取扱うのは違法であると指摘したので、被告が昭和三〇年九月二一日付で、右昭和二八事業年度分法人税等につき、昭和二七事業年度分の欠損金の繰越を否認する再更正決定をした事実、成立に争のない甲第七号証によつて認められる昭和二七事業年度の確定申告書の用紙が青色であつて、これに〈青〉の印が押捺されている事実、成立に争のない甲第一号証によつて認められる北税務署に原告会社会計担当員が出頭し法人税係員に相談したところ昭和二七年度中に青色申告書承認申請書を提出すればこれを認めるとの指示がありよつて昭和二七年五月二九日付で承認申請書を提出したとのことを理由とする右再更正決定に対する異議申請書と題する書面を提出して再調査請求をした事実、及び証人吉川隆一の証言並びに弁論の全趣旨を総合して考えると、右原告主張の如く、原告会社経理担当社員が北税務署に出頭した際、法人税係員が急ぎ青色申告書提出の承認申請をせよ、昭和二七年度中に申請すれば同年度分から青色申告法人として取扱うとの指示をなし、よつて原告会社が昭和二七年五月二九日に青色申告書提出の承認申請書を提出し、被告が即時これを承認したものであることが認められる。右認定を左右する証拠はない。

しかして被告が原告会社の昭和二八事業年度の確定申告書につき、原告会社をその前年度から青色申告法人として、法人税法第九条第五項に規定する通り欠損金の繰越を承認したことについては、前記の如く、当事者間に争がない。

もつとも右繰越の承認と言うものの、それは承認と言う行政処分を意味するものと解すべきではない。なぜなれば、法人税などの如き申告納税制度を採用しているものにあつては、申告書の提出により、申告書に記載せられた税額が自動的に定まる(もしその申告税額が正当でないときには、税務署長において更正することにより、或は申告書を提出しない場合には税務署長が決定をすることにより最終的に定まる法人税法第二九条第三〇条など)のであつて、税務署長の賦課処分なるものが存在しないのであるから、欠損金の繰越の承認とは、要するに原告会社が繰越欠損金を控除して計算した法人税額に対し、被告が何等文句を言わず、更正しようとしなかつたものと言う意味に過ぎないのである。

そしてこの事実は前段認定の被告の指示と承認に続く必然のこと(不作為)と考えられるのであるが、これはあやまりであつて、被告としては、元来これを不当として右欠損金の繰越を否認して更正すべきものであつたのである。その理由は、前段認定の通り、原告会社は昭和二七年五月二九日に青色申告書提出の承認申請書を提出し、被告が即時にこれを承認したとは言うものの、この承認によつても、原告会社が青色申告書を提出し得るのは昭和二八事業年度の申告からであることは、法人税法第二五条第三項の規定によつて明白であり、従つて昭和二七事業年度から青色申告書を提出させ、それに基く法人税額の算出を不当としないで放置することは許されないものであるからである。原告は右法人税法第二五条第三項の規定は訓示規定であつて、税務署長において、たとえ申請時期が事業年度開始後であつても、これを承認してその年度から青色申告法人としての取扱いをしても違法とは言えないと主張する(被告の当初の考え方も恐らくはこれと同様であつたことが推認できる)けれども、青色申告制度は右第二五条第二項、同法施行規則第二八条の二、三、同法施行細則第一三ないし第一九条などによつて、法人の備え付けるべき帳簿類の種類、その記載事項などにつき詳細に定められていて、事業年度開始のその日から右規定による帳簿書類を備え付け、その所定の記載をすることを前提とするものであるから、事業年度の中途での申請に対し、その事業年度から青色申告法人とすることを許すならば、右規定が無視される結果を招来する恐れが大きく、ひいては公正妥当な納税が望まれなくなるから、とうてい原告の右主張のように訓示規定と解することはできないのである。

三、再更正決定は許されないか。

前記の如く、原告会社の昭和二八事業年度の確定申告書につき被告が、原告会社を前事業年度からの青色申告法人として、前事業年度の欠損金の繰越を否認して更正する処置に出なかつたことは、被告としてなすべきことをなさなかつたものであり、だからこそ、当事者間に争のない如く、会計検査院がこれを違法として指摘したのであつて、まさに指摘さるべきことを指摘されたものと言うべく、よつて被告が、前記当事者間に争のない如く、昭和三〇年九月二一日付で、右欠損金の繰越を否認する再正決定をなしたものと解せられ、これは被告のまさになすべきことをなしたものと言うべきである。原告は、右再更正決定を指して税法上どこにも認められていない訳のわからぬ前代未聞の再更正決定であり、当然に無効である、と非難するけれども、前記のように申告税額が正当でないときには、税務署長においてこれを更正すべきこと、及び更に再更正をなし得べきことについては、法人税法第二九条、第三一条、同条の二などに明定するところであり、被告がなした本件再更正決定なるものも、右法条に基くものであることについては、説明を要しないところであつて、原告の右非難は失当である。

以上の通りであつて、原告の請求は失当であるからこれを棄却し民訴法第八九条を適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 入江菊之助 山口幾次郎 野田栄一)

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